それからの俺は、役員の反対を押し切って新規プロジェクトを成功させ、株価を一〇%も押し上げた。
そこからも業績を伸ばし続け、気づけば祖父が社長だった頃よりも経営利益は上がっていた。
もう今では、俺に異を唱える者はいない。
──そんなある日のこと。
祖父の容態が悪化し、緊急入院したとの知らせが届いた。
慌てて病院へ駆けつけた俺に告げられたのは、余命わずか一ヵ月という残酷な現実だった。
悩んだ末、祖父に事実を伝えると、返ってきたのは予想外のひと言だった。
「大翔、一ヵ月以内に結婚しろ」
「……はい?」
政治家も利用する特別病棟の個室。
ベッドの背もたれを上げて横になる祖父は、余命一ヵ月とは思えないほど鋭い眼差しで俺を射抜いた。
「わしの心残りは、大翔の結婚だけだ。本当は孫の顔も見たかったが、そこまでは望まん。せめて、わしが生きているうちに式を挙げろ」
充分わがままを言っているのに、あたかも譲歩しているような口ぶりだ。
「いやいや、無理ですよ。そもそも相手がいないんですから」
祖父に対しては昔から敬語だった。
愛情を注がれて育ったのに、不思議と甘えることはできなかった。
「お前なら望む相手とすぐ結婚できるだろ」
「そうでもないですよ」
一瞬、ある女性の顔がよぎったが、すぐに打ち消す。
「ふむ……片思いか?」
「そういうわけでもなくて……」
そこからも業績を伸ばし続け、気づけば祖父が社長だった頃よりも経営利益は上がっていた。
もう今では、俺に異を唱える者はいない。
──そんなある日のこと。
祖父の容態が悪化し、緊急入院したとの知らせが届いた。
慌てて病院へ駆けつけた俺に告げられたのは、余命わずか一ヵ月という残酷な現実だった。
悩んだ末、祖父に事実を伝えると、返ってきたのは予想外のひと言だった。
「大翔、一ヵ月以内に結婚しろ」
「……はい?」
政治家も利用する特別病棟の個室。
ベッドの背もたれを上げて横になる祖父は、余命一ヵ月とは思えないほど鋭い眼差しで俺を射抜いた。
「わしの心残りは、大翔の結婚だけだ。本当は孫の顔も見たかったが、そこまでは望まん。せめて、わしが生きているうちに式を挙げろ」
充分わがままを言っているのに、あたかも譲歩しているような口ぶりだ。
「いやいや、無理ですよ。そもそも相手がいないんですから」
祖父に対しては昔から敬語だった。
愛情を注がれて育ったのに、不思議と甘えることはできなかった。
「お前なら望む相手とすぐ結婚できるだろ」
「そうでもないですよ」
一瞬、ある女性の顔がよぎったが、すぐに打ち消す。
「ふむ……片思いか?」
「そういうわけでもなくて……」



