最上階に着くと、重い足取りで高城さんの後に続いた。
扉を開けて足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
応接ソファに腰掛ける社長と向かい合うように、車椅子には白髪の男性が座っていた。
白髪をきちんと撫でつけ、上質なスーツを纏うその姿からは圧倒的な威厳が放たれている。
鋭い眼光に射すくめられ、胸の奥まで息が詰まりそうになった。
この人が――社長のおじい様。
紹介を待つべきか迷い、私は黙って深く一礼した。
だが次の瞬間、知性の光を宿す瞳が、頭の先からつま先まで、まるで値踏みするかのように私を射抜いた。
「どこの令嬢だ?」
おじい様の問いかけは、私ではなく社長に向けられていた。
「どこの令嬢でもありません。うちの社員です」
「……一般市民が、伊龍院家に入るというのか」
不快を隠さぬ声音に、背筋が凍る。
――もしかしたら、この結婚は破談になるのかもしれない。そんな予感が胸をよぎった。
「誰でもいいから結婚しろとおっしゃったのは、あなたでしょう」
社長も眉間に皺を寄せ、真っ向から言い返す。
「だからといって――」
「この子がいいのです」
低く、しかしはっきりとした声で社長が遮った。
その瞳は真っ直ぐにおじい様を射抜き、揺るぎない決意を宿していた。
「この子と、結婚します」



