【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

黙々と業務を進めていると、営業本部長がぎこちない笑顔を浮かべて近づいてきた。

手を揉みながら、気安い調子で声をかけてくる。

「工藤ちゃん、今朝の件はねぇ……」

 不気味なちゃん付けに、背筋に冷たいものが走る。

けれど顔には出さず、視線をパソコンに落としたまま答える。

「今朝の件、とは何のことでしょうか」

「いや、その……社長とはどういう関係なのかな、って」

「それ、答えなければいけませんか?」

「……無理にとは言わないけどね」

 本部長は私にとても気を遣うように言葉を選んでいた。

いつもは特別優しくもなく、厳しくもなく、ただ「営業事務の一社員」として接してくる人だ。

会話を交わすこと自体が滅多にない。

「それなら……言いたくないです。すみません」

「……そっか」

 本部長は肩を落とし、去っていった。

 その背中を見送った途端、近くの女子社員たちがわざとらしく声をひそめ合う。

「言わないってことは……やっぱりそうなんでしょうね」

「社長の車で来るなんて派手なことして、何も説明しないのは変だわ」

「見せびらかすときはいい顔してるのに、突っ込まれたら黙り込むなんて……」

(私だって……好きで社長の車に乗ったわけじゃないのに!)