【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

 堂々とした態度に、どうしてこんなに満足そうなのか理解できない。

胸の奥がざわめきながらも、私は社長と並んでホテルのロビーのようなエントランスを抜け、エレベーターに乗り込んだ。

 社長が押したのは、最上階のボタン。

 急に不安がこみ上げてくる。


密室に二人きりという状況が、心臓をやけに早く打たせた。

 大丈夫なのだろうか。

ほとんど知らない相手と結婚して、今日から同棲。

……もし逃げるなら、今が最後のチャンスかもしれない。

「最上階は数戸しかないペントハウス仕様になっている。部屋も広いから、不自由はないはずだ」

 事務的に言いながらも、その声音には自信と余裕が滲んでいる。

 さすがは社長。

一人暮らしなのに、ペントハウス。

「へえ……すごいですね」

 緊張が高まりすぎて、口から出た返事はどこか他人事のように響いた。

これから私が暮らす場所だというのに。

 エレベーターが止まると、目の前にはホテルを思わせる静謐な内廊下が広がった。

厚みのある絨毯に足を踏み入れると、沈むような感覚が伝わってくる。

壁には上品な模様の壁紙が貼られ、柔らかな照明が高級感を際立たせていた。

 社長は迷いなく最奥の扉の前に立ち、カードキーを差し込む。

(どうしよう……。やっぱり結婚なんてやめますって言うべき? 今を逃したら、もう後戻りできない)