【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

「最終面接の時に自分で言っていただろう。『私はなりふり構っていられない』と」

 そういえば……そんなことを口にした記憶がある。

 借金というより、奨学金。

けれど、そのせいで一人暮らしすらできずにいるのは事実だ。

「もし結婚したら──奨学金を全額返済してくれるんですか?」

「ああ。一括で払ってやる。住む場所も与えるし、家賃の心配も不要だ。離婚後に困ることはない」

 胸の奥がぐらりと揺れる。

 ……どうしよう。これは、あまりにも“美味しい話”ではないか。

 契約が終われば私はバツイチになるけれど、高額な奨学金から解放され、あの家からも出られる。

 自由を手に入れられるなら、安いものだ。

 ──もしかしたら、この契約結婚こそが、私にとって唯一の救いなのかもしれない。

……でも。

「あの……言いにくいんですけど。結婚ってことは、その……妻としての役割も、求められるってことですか?」

 顔が熱くなるのを自覚しながら、おそるおそる尋ねる。

 けれど社長は首をかしげた。

「妻としての役割? 家同士の集まりとか、家事とか……そういうことか? 心配はいらない。何ひとつやらなくていい。ただ結婚してくれればそれでいい」

「い、いえ、そうじゃなくて……」

 もごもごと口ごもる私を見かねて、運転手が控えめに口を挟んだ。

「夜のお勤めのことを仰っているのですよ、社長」

 よ、夜のお勤めって、オブラートに包んでくれているけれど、それはそれで恥ずかしい響きだ。