【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

「これは交渉だ。ビジネスと同じく、互いの利益を考えて契約しよう。俺は昨日までに結婚相手を決めねばならなかった。祖父の命が長くない。生きている間に、結婚式を挙げてほしいと懇願されている」

 低い声が胸に響く。

「もしお前が承知してくれるなら、深夜に社に忍び込んで逃げた件は、すべて水に流そう」

「……それって、卑怯じゃないですか? 完全に職権乱用です。それくらいで結婚なんて決められるはず──」

「待て。話はまだ終わっていない」

 遮る声は力強く、けれど先ほどより柔らかい。

「お前の望みはなんだ? 俺にできることなら全力で叶えよう」

「……私の、望み……?」

 真剣な眼差しに射抜かれ、息が詰まる。

 私の望みは──あの家から出たい。ただ、それだけ。

 けれど声には出せずに黙り込んだ私に、彼は低く囁いた。

「金ならある」

 まるで悪魔の囁き。

 その響きに、心がぐらりと揺れた。

 離婚前提の結婚。

 祖父の死期が迫っているのなら、長く続くものではないだろう。

 ……けれど、こんな怪しい申し出をすぐに受け入れていいのだろうか。

 俯いたまま黙り込む私に、悪魔はさらに言葉を重ねる。

「たしか──借金があるんだろう?」

「……っ、どうしてそれを!」

 驚いて顔を上げると、社長は不敵な笑みを浮かべていた。