【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

(そういえば、昔……ここで自殺しようとした人がいたって聞いたっけ)

 人の少ないこの場所は、小学生の頃の私の遊び場だった。

公園で友達と楽しそうに遊ぶ子どもたちを横目に、一人でいる自分が惨めで、だから誰もいないここに来ていたのだ。

(ここは心霊スポットだなんて失礼なことを言って、この崖から飛び降りれば遺体も見つからず、ひっそりと消えられる──そんな怖いことを口にしていた人。あれはいったい誰だったのだろう。顔がどうしても思い出せない)

幼い頃の記憶は、不自然なほど抜け落ちていた。

とりわけ幸せだった頃の記憶ほど、いくら思い出そうとしても霞がかかったように遠ざかっていく。

お母さんのことを思い出せば、寂しさに押し潰されて会いたくてたまらなくなり、涙が止まらなくなる。

だからきっと、心が勝手に記憶を封じてしまったのだ。

私はそっと立ち上がり、〝彼〟がいたはずの場所に足を運ぶ。

そして、崖の下を覗き込んだ。

「うわ……これ、微妙。これは即死できずに、骨折や打撲に苦しんで、動けないまま衰弱して餓死する最悪の結末になるかもしれない」

「そうだな。おすすめはしない」

 誰もいないはずの闇の中、突然背後から声がした。