【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。



「ねぇ、そろそろ離婚しない?」


 なぜこのタイミングだったのか。

 正直にいえば、私にもわからない。

 ただ、食洗機に洗い物を入れていたとき、なぜか「今しかない」と思ってしまったのだ。

 最上階のペントハウスには、朝の光が惜しみなく降り注ぎ、窓の向こうにはどこまでも澄んだ景色が広がっている。

 漆黒の大理石が艶めくキッチンに佇みながら、「ついに言ってしまった」と背筋に冷や汗がつうっと流れる。

 借金を抱えた貧乏OLの私と、御曹司の彼は、離婚を前提にした契約結婚をした。

 私はただ実家から逃げたかった。

 彼はただ、早急に結婚する必要があった。

 偶然が重なり、互いの条件が合致しただけで──そこに愛はなかった。

 結婚さえしてしまえば、あとは離婚を待つだけ。

 それが当然の流れだったはずなのに、いつまで経っても「離婚」という言葉が出てこない。

 その現状に、私は焦りを覚えていた。

 一緒に暮らせば暮らすほど、彼に……どうしようもなく惹かれてしまうから。

 このままでは、いけない。

 そう思った私は、禁断の言葉をつい口にしてしまったのだ。