そんなことはわかっているのに、苦しさに胸が押し潰されそうだった。
(大翔……)
名前を呼んだって、来てくれるはずがない。だって私は、大翔を裏切った。
突然姿を消し、離婚届だけを残して。きっと私を恨んでいる。
もう二度と、愛してはくれない。
「捺美、なにをしている」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り返ると、そこに立っていたのは父だった。
黒縁眼鏡に、ところどころ白髪の混じる短髪。
やせ細った体を猫背に丸め、疲れ切ったような表情。
──昔は違った。母が生きていた頃の父は、筋肉質で明るく、よく笑う人だった。
それが今はまるで別人のように見える。
「なんでもないよ。それより、お父さんの体調は……?」
慌てて頬をぬぐい、笑顔を作ってみせる。
私が家を出たあと、父はすべての家事を担わされ、体調を崩していた。
継姉が私を見つけたとき、「お父さんが倒れた。あんたのせいよ」と耳元で囁いたのを、忘れられない。
(大翔……)
名前を呼んだって、来てくれるはずがない。だって私は、大翔を裏切った。
突然姿を消し、離婚届だけを残して。きっと私を恨んでいる。
もう二度と、愛してはくれない。
「捺美、なにをしている」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り返ると、そこに立っていたのは父だった。
黒縁眼鏡に、ところどころ白髪の混じる短髪。
やせ細った体を猫背に丸め、疲れ切ったような表情。
──昔は違った。母が生きていた頃の父は、筋肉質で明るく、よく笑う人だった。
それが今はまるで別人のように見える。
「なんでもないよ。それより、お父さんの体調は……?」
慌てて頬をぬぐい、笑顔を作ってみせる。
私が家を出たあと、父はすべての家事を担わされ、体調を崩していた。
継姉が私を見つけたとき、「お父さんが倒れた。あんたのせいよ」と耳元で囁いたのを、忘れられない。



