ここから先に記憶はあまりない。

 捺美の告白に佐伯が納得し、ちょっと気まずい雰囲気の中、会議室を出て行った、というのはわかったが、会話の中身がまったくといっていいほど頭に入ってこなかった。

 そんなたいした会話はしていなかったからだと思うが、心、ここにあらずといった状況で、放心状態だった。

 高城がなんか横から話しかけてくるも、それすらも頭の中に入ってこない。

「すまん、今日はもう、早退していいか?」

「早退ってもう、退社の時間とっくに過ぎてますけどね」

 夢と現実の境目がわからないほど、フラフラしながら立ち上がった。

 これは夢なんだろうか。捺美が、捺美が、俺のことを……。

 実感が湧いてくると、胸の奥から喜びが溢れてきて、大声で叫びたい気分だった。

「帰るぞ! 家に。今すぐ! 家に!」

「急いでも捺美さんはまだ退社していないですからね」

 高城の冷静な突っ込みすらも心地いい。俺は踊るような足取りで帰路に着いた。