【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

「一見すると、継娘との接触がきっかけに見えるかもしれません。しかし私はそうは考えていません。なぜなら、その直後も彼女は普段どおり仕事をこなしていたからです。動揺はあったにせよ、崩れてはいない」

 俺は思わず息を呑む。

「ところが──その数日後、突然消息を絶ちました。責任感の強い彼女が、何の連絡もなく職場を放り出すなど本来あり得ない。ですから、本当のトリガーは継娘ではないのです」

「トリガー?」

 思わず問い返すと、先生は穏やかに説明を加えた。

「物事を引き起こすきっかけのことです。人によっては、場所や人物、あるいは匂いがそうなることもあります。今回の捺美さんの行動は突発的で不可解に見えますが……その裏には、過去のトラウマが影響している可能性が高いです」

 過去のトラウマ。

 胸がざわついた。捺美の家庭環境は複雑だった。

家の中でなにが起きていたのか、本当のことは外の人間にはわからない。

「離婚届は書いたのに、辞職願や休職願は出していない。その点にも彼女の葛藤が表れています。あるいは、離婚だけは強く迫られたけれど、仕事を辞めることまでは求められていないのかもしれません」