【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。



 玄関のドアを開けるとき、どうしても胸が高鳴ってしまう。

 ──捺美が帰ってきているかもしれない。

 笑顔で迎えてくれて、『ごめんね、急にいなくなって。でも、これからはずっと一緒にいるよ』と囁いてくれるかもしれない。

 そんな都合のいい願望を、勝手に描いてしまう。

 けれど実際にドアを開ければ、それはただの夢だと突きつけられる。

 暗く、静かで、無機質な我が家。

 こんなにも寂しい場所だっただろうか。

リビングがやけに広く感じる。

 静けさに耐えきれずテレビをつけても、画面に集中できない。

 料理をする気力も湧かない。

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファに沈み込んでプルタブを開けた。

 食欲もなく、仕事にも身が入らない。

 胸の奥にぽっかり空いた空洞は、捺美以外の何者でも埋めることができない。

 ──捺美に、一体何が起こったのか。

 おぼろげながら、輪郭が見えはじめていた。

 桂木とランチをしたあの日の防犯カメラ映像を入手したのだ。

 会社周辺を映した映像の中に──帽子を目深に被った、不審な人影が確かに写っていた。

 奴は捺美を見つけると、おもむろに近付き、耳元で不気味に何かを囁いた。