【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

パンプスのときは一段ずつだった階段も、今は二段、三段飛ばし。

転がるように下りながら、とにかく必死に逃げる。

 怪我なんてどうでもいい。

ただ──捕まるわけにはいかない!

 しばらくして、追いかけてくる足音が途切れた。

 おそるおそる振り返ると、階段には誰の姿もない。

(……諦めてくれた?)

 荒い息を吐きながら考える。

いや、違う。エレベーターで先回りしているんだ。

 階段よりもエレベーターの方が早いのは当然。

 勝負だ──。

 私の中ではもう、社長から逃げ切れるかどうかの戦いになっていた。

負けは許されない。

私はフロアの反対側にある非常扉へ走った。

その先は、絨毯張りの内階段とは違って冷たい鉄骨むき出しの非常階段。

足音ひとつでも響きそうで、息を詰めながら扉に手をかける。

ストッキング越しにコンクリートの冷たさが足裏を突き刺す。

 そこからノンストップで駆け下り、ようやく地上に辿り着いた。

(……勝った)

 全身の力が抜ける。

足は震え、息は切れて、汗で髪が頬に張りついていた。

 けれど、社長に見つからなかった。それだけで十分だった。

 ほぼ裸足のまま歩道を歩きながら、どうやって帰ろうか考える。

 電車に乗れば、ホームでぎょっとされるに決まっている。

タクシーか……出費は痛いけれど仕方ない。

 そう思い立ち止まったとき、一台の黒い車が音もなく目の前に停まった。