【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

心の中で必死に悪態をつきながらも、顔は真っ青になっているのが自分でもわかる。

手のひらは汗でぐっしょりだ。

 社長だけには、絶対に見つかるわけにいかない。

 深呼吸して覚悟を決めた。

エレベーターなんて使えない。忍者さながら忍び足でエレベーターホールを抜け、端にある階段へ。

 二十三階から駆け下りるなんて無謀だとわかっているけれど──今は逃げるしかない。

 幸い、階段は絨毯敷き。

パンプスの足音が響かないことに感謝しながら、一段一段を飛ぶように下りていく。

 二階か三階ほど下りたときだった。

「誰だ、止まれ!」

 低く鋭い声が上から落ちてくる。社長の声だ。

 ──止まれるわけがない。

 私はさらに足を速めた。

 元陸上部の底力を、今こそ見せる時だ。

(どぉりゃああ!)

 心の中で叫びながら階段を駆け下りる。

勢い余って、片方のパンプスが脱げた。

 一瞬戻ろうとしたけれど──。

「待て、こらぁ!」

 ヤクザ顔負けの迫力ある声が、背後から轟いた。社長の声だ。

 恐怖で足がすくみそうになり、靴を取りに行く余裕なんてない。

残った片方も脱ぎ捨ててバッグに突っ込み、裸足で駆け下りた。