「さすがに……無理だよ……」

 私は絞り出すように言葉を吐き出した。

(無理だよ。時期を遅らせたって離婚することは決まっているんだから。そんなの辛すぎる、耐えられない……)

「そっか……」

 大翔は小さく呟いて、後ろから抱きしめていた手をそっとほどいた。

 そして、そのまま静かにリビングから出て行った。

 蛇口から流れる水を見ながら、ぼーっとしていた。

 使わないなら止めなさいよ、もったいない、とは思うのだけれど、体が動かなかった。

 心が、悲鳴を上げている。それを必死で押し殺すのに精いっぱいで、他にはなにもできなかった。

(好きだって言ったら、全部崩れる。気持ちを悟られちゃいけない。押し殺せ。感情を押し殺すのは、私の得意分野でしょ?)

 辛いときも苦しいときも、泣き叫びたいときも、いつも私は心の中で押しとどめてきた。

 大丈夫、今回だって上手くやれる。

 私は、幸せにはなれない運命だから。そういう人生だから。