離婚を切り出したばかりなのに、「デートしよう」とはどういうつもりだろう。
『また今度な』と言っていたから、今朝の話をなかったことにするつもりなのかもしれない。
けれど、それにしては大翔の様子がどこかおかしかった。
傷ついて怯える大型犬のような瞳をしながら、口元には無理に笑みを浮かべている。
「……いいけど」
断る理由もなく承諾したものの、居心地の悪さから視線を逸らしてしまう。
大翔の顔を真正面から見ることができない。
離婚しなければという強迫観念に似た思いが、募る恋心に必死で蓋をしていた。
私がこんなにも大翔を好きだなんて──本人はきっと気づいていない。いや、気づかれてはいけないのだ。
そんな私の逡巡など意に介さず、大翔はすっと近づき、私の手を取ると、そのまま強引に歩き出した。
社長室を出て、非常階段を上り、屋上へと続く分厚い扉の鍵を開ける。
屋上は社員ですら立ち入り禁止。
そこにあるのは──大きく『H』のマークが描かれたヘリポートだけ。
扉を開けた瞬間、突風と轟音が体を叩きつけた。
「え……⁉」
『また今度な』と言っていたから、今朝の話をなかったことにするつもりなのかもしれない。
けれど、それにしては大翔の様子がどこかおかしかった。
傷ついて怯える大型犬のような瞳をしながら、口元には無理に笑みを浮かべている。
「……いいけど」
断る理由もなく承諾したものの、居心地の悪さから視線を逸らしてしまう。
大翔の顔を真正面から見ることができない。
離婚しなければという強迫観念に似た思いが、募る恋心に必死で蓋をしていた。
私がこんなにも大翔を好きだなんて──本人はきっと気づいていない。いや、気づかれてはいけないのだ。
そんな私の逡巡など意に介さず、大翔はすっと近づき、私の手を取ると、そのまま強引に歩き出した。
社長室を出て、非常階段を上り、屋上へと続く分厚い扉の鍵を開ける。
屋上は社員ですら立ち入り禁止。
そこにあるのは──大きく『H』のマークが描かれたヘリポートだけ。
扉を開けた瞬間、突風と轟音が体を叩きつけた。
「え……⁉」



