海外転勤の話は、その日のうちに佐伯へ伝えられた。
部長は「国内営業が回らなくなる」と難色を示したが、佐伯にばかり負担を押しつけていたのはその部長自身だ。
むしろこれを機に鍛え直せばいい。
もし回せないのなら、部長としての器はない。会社にとっても良い試金石になる。
提示した条件は破格だった。それでも佐伯はすぐには承諾しなかったという。
だが、自分のキャリアを考えるなら――断る理由などないはずだ。
そして、その夜。事態は大きく動いた。
「社長! 佐伯が……捺美さんを会議室に呼び出しました!」
ついに高城も呼び捨てにしだした。……って、そんなことはどうでもいい。
「なんだと⁉」
高城に促され、応接のソファに腰を下ろす。
テーブルの上にはノートパソコン。
高城が片耳に着けていたイヤホンを外し、代わりに音量を上げた。
ザザ……ザザ……。
人が動く気配のようなノイズが響く。



