【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

その時だった。

 エレベーターが開く音が響く。

 慌ててノートパソコンを閉じ、シャットダウンもできないままデスクの下へ潜り込んだ。

 この時間に会社にいることが知られたら、間違いなくまずい。

 足音が近付いてくる。

そっと顔を出すと、スーツ姿の高身長の男性だった。

警備員かと思ったけれど……違った。

会社の人なら、もっと厄介だ。

 足音が硬い床を打つたびに、心臓が跳ね上がる。

 どんどんこちらに近付いてくる気配に、息を詰めたまま、そっと別のデスクの下へ身を滑り込ませた。

 わずかに揺れる影に怯えながら、それでも震える足を押し出すように進んでいく。

見つかったら終わりだ。

 どうにか気配が遠のいた隙を突いて、音を立てないよう足を運ぶ。

 胸の鼓動を必死に押し殺しながら、オフィスを抜け出し、ようやくエレベーターホールへたどり着いた。

 ──誰?

 こっそり振り返ると、薄暗い室内でただならぬオーラを放つ人影が立っていた。

 モデルのように細身で、高身長。

小さな顔立ちが闇の中でも際立って見える。

うちの部署に、こんな人いたっけ? 

佐伯さんも十分に美丈夫だけれど、ここまで背は高くない。

 その人物は私のデスク前に立ち、閉じられたノートパソコンをじっと見つめている。

 横顔を目にした瞬間、脳裏に電流が走った。

(……社長だ!)