【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

 二十三階のフロアは、やはり誰もいなかった。

 もし見つかっても言い訳は用意してある。

『佐伯課長に提出する資料を送信し忘れてしまって……どうしても今だけ処理させてください』

 佐伯さんの名前を出せば、多少は事情を察してもらえるはずだ。

佐伯さんの下につく事務はきついと有名だから。

 もっとも、その佐伯さん本人に見つかったらアウトだけれど──彼は遅くまで残業するタイプじゃない。

これまでも鉢合わせたことはなかった。

 電気をつけると警備員に気付かれて面倒なので、オフィスは薄暗いまま。

静けさに身をひそめ、パソコンを起動する。

 個人情報が厳しいから事務職は持ち帰りができない。

だから、こうして夜中に戻ってくるしかないのだ。

カタカタと控えめに打つキーボードの音が、がらんとした空間に響く。

 不気味さと緊張感が漂う。

けれど、誰にも邪魔されないぶん日中よりも集中できる。

指は止まることなく動き続けた。

 ふと顔を上げ、時計を見る。

 時刻は二十三時五十八分。

 ……ああ、もうすぐ日付が変わってしまう。