【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

だがすぐに真顔に戻り、低い声で返してくる。

「……義務で作ってもらっても、意味はありませんよ。愛があれば別ですが」

 その言葉には、はっきりとした棘があった。

 挑発だ。俺を正面から刺しにきている。

「……俺たち夫婦に、愛がないって言いたいのか?」

 睨みつけると、佐伯は一歩も退かずに視線を返してきた。

「はい。逆に伺いますが――あなた方ご夫婦に、愛はあるんですか?」

 痛烈な一言に、思わず言葉を失う。

(……こいつ、まさか契約結婚だって知っているのか?)

「ちょっと大翔! なに勝手に私のオフィスに来てるのよ!」

 図星を突かれて固まっていた俺の背に、捺美の声が飛んできた。

 いつの間にか席を立ち、俺たちの近くに来ている。

「勝手にとはなんだ、ここは俺の会社だぞ?」

「佐伯さんは忙しいの! 邪魔しないで!」

「いや、俺だって……」

「もういいから! 恥ずかしいから早く帰って!」

 娘の授業参観で、娘の友達と雑談して怒られる父親の気分だ。

理不尽きわまりないのに、怒れない。

「佐伯さん、仕事に戻りましょう」

 そう言って、捺美は佐伯の背を軽く押した。

(……その背中、俺も押されたい)