【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

「……あの、すみません」

 壁の陰から愛しの妻をこっそり眺めてニヤけていた俺は、不意に声をかけられて振り返った。

 そこに立っていたのは、背丈も体格も俺と大差ない男。

地味で朴訥とした雰囲気なのに、顔は抜群に整っている。

鋭い目力を宿した奥二重の瞳に見据えられ、思わず息をのむ。

 この男は……。

「佐伯哲治」

 思わず名を呟くと、佐伯は軽く頭を下げた。

「社長に覚えていただいていたとは光栄です」

「俺は全社員の顔と名前を把握している」

「さすがです」

 ……なんだ、この男。どうして俺に声をかけてきた?

 高城の言葉が頭をよぎり、つい必要以上に警戒してしまう。

「なんの用だ。俺はいま、可愛い妻を盗み見するのに忙しい」

 高城が横にいれば、間違いなく「キモッ」と突っ込まれるところだが、今は誰もいない。

「ああ、そうですね。工藤さんは……ずっと見ていたくなる魅力がありますから」

 佐伯は苦笑いするどころか、真顔で言ってきた。

 冗談なのか天然なのか……いや、どっちにしてもムカつく。