○学校・教室(休み時間)
 
翌日。2限目の休み時間。

さくらは里帆とともに次の体育の授業の着替えのために更衣室へ向かおうと席を立つ。

すると。

藍「なぁ、さくら」

さくら「……」

珍しく藍の方から、教室で話しかけてきた。

さくら(いつもは、相当な用事がないと話しかけてなんかこないくせに。私はまだ昨日のこと怒ってるんだからね…!)

さくらはわざと聞こえていないかのように、そっぽを向く。

里帆「さくら…笹木、話しかけてるよ」

コソッと隣にいた里帆から声をかけられるも…。

さくら「いいの。里帆行こう。次は体育だから早く着替えに行かないとおくれちゃう」

里帆「え!?ちょ、さくら?」

藍の横を素通りするさくらに困惑しつつもあとをついてくる里帆。

藍「……ハァ」

そんな2人の背中を見送る藍は、小さくため息をこぼした。



○学校・更衣室(休み時間)

クラスメイト女子A「あ、さくら。里帆遅いじゃん。早く着替えないとおくれるよ〜」

クラスメイト女子B「教室、マラソンらしいから遅れると周回増やされるかもだから早くね!じゃ、先行くわ」

更衣室に入ってきた里帆とさくらに対してクラスの女子たちがそう声をかけてくる。

さくら「うん。急ぐね」

さくらは話しかけてきた女子たちに笑顔で対応する。

2人が出ていくと更衣室の中は、さくらと里帆の二人きりになった。
さくらは何事もなかったかのように自分のロッカーを開け、制服を脱ぎだす。

里帆「ねぇ、さくら…王子となんかケンカでもしたの?今まで無視するなんてことなかったじゃん」

里帆も体操服に着替えつつ、控えめにさくらに問いかけてきた。

さくら「別に…ケンカってわけじゃないけど…」

里帆「昨日の学食での件?私がたまたま風邪で休みの日に学園の王子と姫の集会があったって聞かされた時は驚いたのよ?」

そう実は、里帆は昨日、偶然にも風邪で休みだったため、学食でのことは人づてに聞いたとのこと。

さくら「色々事情があって…まぁ、そのことはまたゆっくり話すよ。とにかく学食の件が原因ではないから」

里帆「ふーん…?まぁ、事情はよくわかんないけどさ。無視はよくないよ?私、王子のあんな顔はじめてみたもん。なんだろ、飼い主に捨てられた犬?みたいな??」

さくら「なにそれ…変なこと言ってないで早く行こ?マラソンの周回多く走るのはゴメンだもん」

里帆「それは同意」

苦笑いを浮かべ、パタンとロッカーを締めたさくらは里帆とともに、足早に更衣室をあとにした。



○学校・体育後(更衣室)

体育の授業が終わり、汗だくで更衣室へと戻ってきたさくらと里帆。
クラスの女子たちもダルそうに制服へと着替えている。

さくら「マラソン、きつかったね…」

さくらは、ロッカーの中にあったお茶をゴクリと飲み、里帆に声をかけた。

里帆「最悪…もう、マラソンの時は体育しない。てか、何でこんなに走らなきゃなんないの?体力も気力も0だよ〜」

げっそりとやつれた里帆は、そう言ってロッカーに寄りかかる。

さくら「確かに…。次の授業は寝ないようにしないと……ん?」

里帆の嘆きに同意しつつ、ロッカーからタオルを取り出した際、さくらはタオルの上においてあったスマホが光っているのに気づいた。

さくら(あれ?メッセージ…誰だろ?)

スマホ画面を確認すると『遊佐楓』の名前が表示される。

さくら(遊佐くんから…?)

メッセージを表示するさくら。 

遊佐【さくらちゃん、お疲れ!早速なんだけど昨日言ってた遊びに行く日、今週の日曜日あたりとかどう?妃奈が早く行きたいってテンション高くて困ってるんだよね〜良ければさくらちゃんから王子にも聞いといてよ】

そんなメッセージと共になにかのキャラクターの【グッ!】というスタンプが添えられていた。

さくら(え…。私が藍に聞かないとなの…?でも、そうだよね。遊佐くん、藍の連絡先知らないわけだし…。しょうがない…メッセージだけ送っとくか)

さくらは、楓から送られてきたメッセージをそのまま転送し、藍のチャットに送信する。

さくら(これでいいでしょ…)

里帆「さくらー遅いよ〜早く着替えないとおいてくからね」

さくら「あ!待って!すぐ行くから」

スマホをロッカーの中に戻し、急いで制服に着替えたさくらは里帆と共に教室へと戻っていく。

その時、さくらはロッカーの中にスマホを置いてきてしまうのだった。



○学校・教室(放課後)

キーンコーンカーンコーン…。

終業のチャイムが鳴り、クラス内が騒がしくなる。

友達と帰る人たち、部活へと急ぐ人たちで教室内がザワつく中、さくらは1人ゴソゴソとカバンを漁っていた。

さくら(あれ?スマホがない…??体育の時まではあったのに……もしかして更衣室に置きっぱなしにしてきた、とか?)

自分のスマホが見当たらず焦るさくらに対して。

里帆「さくらー、帰ろ〜ってどうかしたの?」

と不思議そうに声をかけてかる里帆。

さくら「あはは…。更衣室にスマホ置いてきちゃったみたい。里帆、待たせるのも悪いし先に帰ってて」

カバンを肩にかけ、慌ててさくらは席を立つ。

里帆「わかった〜!じゃあ、また明日ね」

背中に里帆のそんな声を聞きながら、さくらは更衣室へと続く廊下を進む。



○学校・更衣室(放課後)

ロッカーを開けると、そこにはスマホがちゃんとあってさくらは内心安堵した。

さくら「よかった〜。やっぱりここだった」

誰もいないシンと静まり返った更衣室内にさくらの声が響く。

スマホを確認すると、いくつか通知がきていて順番に目を通すさくら。

その時。

さくら(…藍から返信きてる)

体育後の休み時間に楓からきたメッセージをそのまま転送したことを思い出し、さくらはチャットを開いて内容を確認した。

藍からの【わかった、あけとく】という素っ気無いメッセージ。

さくら(ふーん、藍ってば、朝は声かけてきたくせに、昨日のこと謝る気はないわけね)

さくら「ハァ…、なんか怒ってるのもバカらしくなってきた。そうだよ、あんなの藍のおふざけなんだから、私が気にする必要ないじゃん…!あぁ、もうやめた。忘れよ、忘れよ!」

1人でそう叫ぶと、少しだけスッキリしたような気持ちになった。

さくら(今週の日曜日か…どうしたんだろ?妃奈ちゃんと遊ぶのは楽しみだったのに…)

妃奈と遊ぶのは昨日、あれだけ楽しみだったハズなのに何故か、気が重いさくら。

その理由がハッキリせず、モヤモヤが消えないまま、さくらは帰路につく。


そして、その日を境に、あれだけさくらの部屋に入り浸っていたはずの藍はピタリとさくらの部屋に来なくなってしまった――。