○学校・教室(昼休み、昼食タイム)

教室の廊下でキャーキャーと騒ぐ数名の女子たち。そんな女子生徒を苦笑いで見つめる和谷さくら(高校2年生)。一緒にお昼を食べている友人、神岡里帆は、騒ぐ女子達へ冷めた視線を送る。


里帆「相変わらず、すごい人気だね〜。でも、ここまでうるさいととマジでいい迷惑なんだけど…」

さくら「あはは…本当に毎日毎日、すごいよね〜」


廊下にいる女子達の視線の先には、さくらの幼なじみ笹木藍の姿。
友人数名と楽しそうにお弁当を食べている。藍の容姿は、色白で透明感のある肌。綺麗な二重の大きな瞳。髪の色素は薄く光が当たると茶色にキラキラと光っている。
藍は廊下にいる女子に気づくと王子様スマイルで微笑みを浮かべる。


女子A「キャー。今こっちに向かって笑ってくれたよ〜」

女子B「藍くん、マジ天使…いや王子!目の保養」

女子C「可愛いすぎる〜」


藍の笑顔にノックアウト寸前の女子A〜C。


里帆「うっわ。またあんたの幼なじみが数人の女子のハート奪ったよ。マジでモテるね〜笹木藍」


コソッとさくらに耳打ちする里帆。
あはは…と苦笑いを浮かべるさくら。


さくら(私の幼なじみの笹木藍は通称学園の王子様。爽やかで中性的なルックスでかなりモテる。けど、そんな藍には学校の皆には言えない秘密がある…。そう、幼なじみの私しか知らない秘密が…)


○休日・さくらの部屋(午前中)

自室で学校の課題をしているさくら。
さくらのベッドに横になり、ダラダラとゲームをする藍。
藍の格好は黒縁メガネにスウェット。髪も無造作でいつもの王子様オーラは皆無。


さくら「もう、藍ってばいい加減にゲームやめて自分の部屋に戻ってよ。てか課題はやったの?」

藍「やだ。今俺の部屋大変なことになってるから、さくらの部屋居心地いいし…課題は後でする」

さくら「大変なことって…ただ、掃除をちゃんとしてないだけだしょ?」


そんな藍の返答にため息をつくさくら。


さくら(そう…学園の王子様こと笹木藍の本性は…陰キャなゲームオタクなのだ。学校に行く時は完璧に身なりを整えているが自宅につくとオフモード。休日になると大体私の部屋か自室に入り浸りゲーム三昧して過ごしている…)


さくら「ねぇ、いい天気だしゲームばっかりしてないでたまには出かけないの?」

藍「やだ。人混み嫌い」


ボソッと呟く藍。
小さく肩を落とすさくら。


藍「そう言うさくらだってせっかくの休日なのに暇してんじゃん?予定ないわけ?」

フッと小馬鹿にしたように意地悪く笑う藍。そんな藍の表情に思わずトキメくさくら。

さくら(あいかわらず…顔だけは良いんだから…)

さくら「残念でしたー。午後から里帆と出かけまーす」

藍「…ふーん。あっそ」


興味なさげにゲームに視線を戻す藍。


さくら「はいはい。興味ないなら聞かないでよ。というかそろそろ遊びに行く準備するから、藍部屋から出て行って」

藍「は?何で?」

さくら「何でじゃなくて…服を着替えるの!藍が居たら着替えられないでしょ」


大きな声でさくらは藍に向かって言い放つ。


藍「はっ…別にさくらの着替見たところで…」

さくら「そういう問題じゃない!もうさっさと出てってよ」


ベッドに横になっている藍の腕を掴み、さくらは強制的に部屋の窓から隣の家(藍の家)に帰そうとやっきになる。


藍「っちょ!危ねーから!わかったから押すなって…」

さくら「じゃあ、早く自分の部屋に戻ってよ。あんまりゴネると学校の皆に藍の本性バラすからね!」

仁王立ちで藍に視線を送るさくら。
小さく舌打ちする藍だが、ようやく諦めてさくらの部屋の窓から自分の部屋に戻る。

そのまま窓の鍵とカーテンを閉めるさくら。

さくら(これが学園の王子様の笹木藍の秘密。この秘密を知っているのは今のところ、幼なじみの私だけ。親友の里帆にさえ秘密なのだ)


○休日・カフェ(15時くらい)

今時のオシャレカフェ。
カフェ店内人混みはまばら。
アイスラテを飲む里帆とパクパクとチーズケーキを食べるさくら。

里帆「…で、あんたの幼なじみの王子様は休日は何して過ごしてるわけ?」

さくら「へ?」

突然の質問にさくらは目を丸くする。

里帆「へ?じゃなくて。笹木藍だよ。王子様の休日って気になるじゃん?」

さくら(ダル着でゲーム三昧です…)

さくら「幼なじみって言っても隣に住んでるだけだしそこまで仲良くないから…よく知らない」

里帆「まぁ、確かに…さくらと笹木ってクラスでもそこまで親密に話してないもんね〜。高校生の男女の距離感なんてそんなもんか」

里帆は頬杖を付き、つまらなさそうにストローを加えアイスラテを飲む。

さくら(ゴメン…里帆。嘘ついて)

心の中で里帆に謝るさくら。
ちらりと窓に視線を移す里帆が目を見張る。

里帆「あれ…?あそこにいるのって…笹木じゃない?」

さくら「え?」

里帆の声かけに彼女の視線を追ってさくらは窓を見る。
カフェのすぐ近くのテイクアウト専門店に並んでいるのは王子様オーラ全開の藍と、知らない美少女。

美少女の容姿(腰までのゆるふわパーマにロリータ服を着こなしている。量産型女子)

里帆「うっそ〜!なになに?彼女!?え、さくらなんか知ってる…??」

さくら「…し、知らない」

顔面蒼白でフルフルとさくらは首を横にふる。

さくら(誰なの…?あの美少女は!?てか、さっきまでダル着でゲームしてたじゃん…どこも行かないって言ってたのに…)

里帆「へぇ。王子はああいう姫系が好きなのか…まぁ、お似合いだよね〜」

ニヤニヤと面白そうに笑う里帆。
内心、モヤモヤしているさくら。


さくら「あの子、同じ学校の子かな…?」

里帆「さぁ…?でも、あんな可愛い子いたかな?」

お互い楽しそうに微笑み合う二人を遠目に見て戸惑いを隠せないさくら。
そんな自分を悟られないよう里帆には笑顔を向ける。

さくら「あんまりジロジロ見てるのも悪いし…そろそろ行く?てか、私お母さんに買い物頼まれてたんだ…!」

里帆「そうだね〜。あ、おっけ。じゃあ今日は解散にしようか…!また遊ぼう」

会計を済ませ、カフェを出た先で里帆と別れて帰路に着くさくら。未だに先ほどの藍といた美少女の件でモヤモヤを隠せない。


○さくらと藍の家の近く(夕方)

あと数10メートルで自宅に着くと言う途中の道すがらでバッタリと藍と遭遇。

藍「お、さくらじゃん。お前も今帰り?」

ジトッとした視線を投げかけ、さくらは無言で藍の横を通り過ぎる。

さくら「……」

藍「お前、どうかした?なんで無視?」

通り抜けようとしたさくらの手首を掴み、引き止めると不思議そうに声をかける藍。

さくら「藍…言っとくけど彼女できたんなら私の部屋に来るのはもう禁止だからね。いくら幼なじみでもやっぱり節度は大事だと思うからさ」

藍「…は?何の話?」

意味がわからないといった表情でさくらを見つめる藍。

さくら「だーかーら!さっき街で藍を見かけたの!美少女連れてたでしょ?あの子、彼女なんじゃないの??」

ポカンとした表情でさくらを見つめる藍。しかし、次の瞬間には盛大に笑いだす。
今度はさくらがポカンとした表情で藍を見つめる。

さくら(な、何…急に笑いだしたりして)

完全にクエスチョンマークが飛び交っているさくらに対してようやく笑いがおさまった藍が説明をしだす。

藍「び、美少女…、それ聞いたらアイツ喜ぶよ」

さくら「…?」

藍「まだ気づかない?遠くからだったからわかんなかったのかな…さっき、俺と一緒にいたのは琳(りん)だよ」

さくら「…え!?り、琳くんなの??」

驚きで声が上ずるさくら。
そんなさくらを見てケラケラ笑う藍。

さくら(今、藍が琳と呼んだ人物のフルネームは、笹木琳。そう藍の2つ歳下の弟だ)

さくら「な、なんで琳くんがあんな格好…え、どういうこと…??」

困惑するさくらの肩をポンと叩くとクスッと不敵な笑みを浮かべる藍。

藍「まぁ…琳にも色々あんだよ。あんま詮索してやんな?」

琳「ちょっと兄貴!さくらちゃんに適当なこと言うなよ!」

驚くさくらの背後から現れたのは藍の弟の琳。すでに女装ではなく普段の格好に戻っている。

琳「さくらちゃん、誤解しないでね…あれにはちょっと事情があって…」

藍「事情もなにも、ゲームで俺に負けた罰ゲームじゃん?」

小馬鹿にしたように弟をあしらう藍。

さくら(そういうこと…ね。昔から琳くん藍にゲームで負けてはパシリに使われてたもんなぁ…。それに飽き足らずとうとう女装までさせられたのね)

自分がゲームが強いのを逆手に昔から琳くんをこき使ってきた藍の姿を思い出し、さくらは琳に同情の視線を投げかける。

琳「…っ〜。次こそは兄貴を負かすからな!覚えとけよ…絶対兄貴にも女装させて街歩かせてやる…!じゃ、さくらちゃんまたね」

ふんっとそう吐き捨て、さくらに笑顔を向けると家の中に入っていく琳。

さくら「藍さ〜あんまり琳くんいじめるのやめなよ?」

藍「だって、アイツ反応面白いじゃん?それに俺今日暇だったし」

さくら「だからって……っ!」

ズイッとさくらに近づく藍。
急に距離が近くなり驚くさくら。

藍「だって、今日はさくらが構ってくんなかったじゃん」

耳元でソッとささやく。
カーッと頬を赤くするさくらを満足そうに眺める藍。

さくら「〜〜っ!」

藍「さてと。俺も帰って課題しよーっと。あ、さくら後でそっち行くから」

機嫌よくさくらに声をかけると家に入っていく藍。

残されたさくらは未だに顔を真っ赤にして困惑していた――。