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ノア様やリリー様の前以外では良い婚約者を演じなければならない。あの人たちが思う、こうあるべき姿でいなければならない。


私はこの国の反逆者であり、裏切り者なのだから───。


どんなに心の中で悔やもうとも、私が今していることはもう取り返しのつかない重大なことだ。


それを知らずに私のことを好きでいてくれる颯霞さんや颯霞さんの御両親には本当に心が痛む。


けれどいつかは、こうやって人を思う心さえ私は手放さなければならなくなるのだ。

そう心に強く刻んで、一度決めたことを曲げない決心を私は今、ここでする。


「二人の婚約式の取り決めをしなければならないね。どうかな、私はもう近々開催したいと思っているのだが」


国一番の軍隊を率いる隊長と、この国で最も高い位についている名家のお嬢様の婚約。それはこの国にとって、とても喜ばしいことで、とても重大なことでもある。


「俺もその考えに賛成です」


私の隣で颯霞さんがそう言ったのが聞こえ、私は何とも居た(たま)れない気持ちになった。苦虫を噛み潰したように唇を噛み、三人には気付かれないほどに拳を強く握る。