しかし男はそれを軽く制すると剣を収め、両手を広げてこれ以上戦う意思のないことを示した。

「なぜ、あなたのような方がこんな場所に……」

 オーギュストの方も半ばまで書き終えた魔法陣を消すと剣を仕舞い、再びセシリーを庇うように前に立つ。男は父から視線を外すとセシリーの方を一瞥(いちべつ)し、周りに指示をして囲いを詰めさせる。

「その瞳、リーシャの娘で間違いないようだな……。話は後だ。大人しく捕まってくれるなら悪いようにはせぬ。娘をひどい目に合わせたく無くば、下手な抵抗はしないことだな。今回は念を入れて宮廷魔術師も複数連れて来ている。いかにお前といえど逃げられはせぬぞ」
「……すまん、セシリー」

 ややあって力なくオーギュストは手を上げ、娘にもそれを促す。ふたりは兵士たちに大人しく縛られ、リルルも大きな麻袋の中に入れられてしまった。

(この国の……軍隊って。今更父上を捕まえて……どうするつもりなの?)

 急転する事態にセシリーの頭は着いていかない。拘束されたふたりと一匹は、されるがままに山道をゆっくりと連行され、麓に用意してあった馬車に詰め込まれた。