ビックリしたけど、ほのかに香るシトラスが、体の緊張を解いていく……。
「ふーん……そういうこと……」
要先輩は気だるげに声を落とすと、またペッタンペッタンと足を鳴らして去っていく。
その音が完全に消えたとき、私は理都くんの腕から解放された。
「そういうことって……?」
なにも言ってないのに、要先輩はなにかを納得していた。
「水野は知らなくていいよ。じゃあ」
一言だけそう落とすと、理都くんは私を置いて階段を下りて行った。
あ……。
さっきの話の続き、聞きたかったのに。
だけど。
きっと、まだまだ私の知らないことがいっぱいあるんだ。
そんな予感を胸に抱きながら、私はしばらくその場から動けなかった。