あの、と話を切り出そうとした私の言葉をさえぎった理都くんは。

私の返事を聞くことなく、それだけ言うと私の横をすり抜けて行った。


……シトラスの香りだけを残して。


「……っ」


この間言ったことって、もしかして契約の話……?

今ごろ意味を理解して慌てて振り返ったけど、そこにもう理都くんの姿はなくて。


私はいなくなったあとを見つめながら呆然と立ち尽くす。


『長くても50年、いや40年てとこかもしれない』


自分の身は危険なままで、私を守ろうとしてくれてた理都くん。

どうしてなかったことにしていいなんて言うの……?


残ったシトラスの香りが、私の胸をぎゅっと締めつけた。