──ソレを見たのは、本当に偶然だった。



「うっそ、5秒台だって!」

「ほんとに!? 速すぎでしょっ!」


高校生活も折り返しの、高2の9月。

体育でバレーボールの授業中、グラウンドの半面では男子が体力測定の50メートル走をやっていて、みんなの視線はそっちにくぎづけになっていた。


というのも。

超絶イケメン、運動神経抜群、成績優秀というハイスペックな朱雀(すざく)理都(りと)くんが走ったから。

キリッとした涼し気な目元に、すーっと筋の通った高い鼻、小さくて形のいい口。

サラサラな黒髪は、私もうらやむくらい艶があってキレイ。

まさに、物語の中から飛び出してきた王子様みたいな人。

女子たちの間では、顔面国宝とも言われてる。


「5秒台って、すごいなあ」


私、水野(みずの)愛菜(あいな)は、そんな様子をぼけーっと見ていた。

理都くんとは今年初めて同じクラスになったんだけど、まだ喋った記憶はない。