【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「人気者は大変ですね」

「俺に過度な幻想を抱いているだけでしょう。――この顔はつくづく呪いだな」

 吐き捨てるように囁かれた言葉を私は聞き逃さなかった。

 どういう意味だろうと、思わずまじまじと見つめてしまう。

 私の視線を受け止めた彼は珍しく『しまった』という顔をしていた。

 
「実を言うと、俺は自分の顔が好きじゃなくて」

 
 手元のコーヒーに視線を落としながら、アシュレイが静かに語る。
 
 
「俺は父親に全く似ていないんです。そのせいで父は母の不貞を疑い、俺が物心つく頃には、二人の仲は冷め切っていました」

 アシュレイの実家はそこそこ大きな商家で、庶民にしては裕福な暮らしぶりだったらしい。
 食べる物も着る物にも困ったことはなく、衣食住すべてにおいて恵まれた環境で育った。
 
 だが、子供が本来与えられるはずの愛情を知らず、心はずっと空虚だったという。