恐怖で頭の中が真っ白になった。

 寒い玄関ホールに立ち尽くしているせいか、はたまた恐怖のせいか。体が勝手に震えて歯がガチガチと鳴る。

 
 一体、誰がこんなことを……。
 

 手紙を握り絞めたまま呆然としていると、突然玄関の扉がガチャッと音を立てた。
 
 ビクッと肩を跳ねさせ見やると、開いたドアからイアンがぴょこっと顔を覗かせた。


「ビッキー、ただいま!」

 
 無邪気な笑顔に、ほっと全身の力が抜ける。

 恐怖に支配され、まるで石化したように動かなかった頭と体が活動を再開した。
 
 一目散に走ってくるイアンを抱きとめて、私は「おかえりなさい」とほほ笑んだ。

「あれ、ビッキーの手すごく冷たい。風邪引いちゃうよ」

「そうですね。イアン様のほっぺたも冷たいです。お外、寒かったですか?」

「うん。秋風ピューッて吹いて寒かった」

「じゃあ、温かい飲み物を淹れますね」

「僕は蜂蜜ミルクティーがいい!」

「分かりました」

 リビングまでの廊下を並んで歩く。

 あれ……、イアン様、歩き方がちょっと変?
 右足を引きずっている?

 注意深く見ていると、右足を地面につけた瞬間、イアンがちょっと顔をしかめた。

 怪我を隠すのは、私に心配をかけたくないから?