二人を見送った私はイアンの学習計画を立てたり、屋敷内の雑用を手伝ったりと忙しなく動き回っていた。

 気がつけば、もうそろそろイアンが帰ってくる時間だ。
 
 出迎えるため玄関ホールに向かうと、手紙の束を持った執事に声をかけられた。

「あっ、ビクトリア先生。良い所に。ちょうど、先生宛にお手紙が届いたんですけど、差出人が分からないんですよ」

「あ、本当だ」

 受け取った封筒の宛先欄には『ビクトリア』の文字、差出人欄は空白だ。

「書き忘れかしら? 読んでみますね。ありがとう」

 礼を言うと、彼は一礼して仕事に戻っていった。

 私はその場で封を切り、中にある便せんを取り出した。

 貴族がよく使う透かし模様の入った高級便せんではなく、庶民が使う無地の便せんだ。

 平民の友達や知り合いは殆どいないはずだけど、誰からだろう?
 
 手紙に目を落とした私は、驚きのあまり言葉を失った。

 
 そこに書かれていた内容は――。


【 オマエを許さナイ――。
 オマエの幸せと大切な人間ヲ、壊してヤル 】


「なに……これ……」

 手紙を持った手が震える。

 筆跡を隠すように曲がりくねった文字で、悪意のこもった脅し文句が書かれている。
 これは紛れもない――脅迫文。