だけど、私の胸元には婚約指輪がわりのブローチがきらめき、こちらを見つめるアシュレイの眼差しはひときわ甘い。

 ただの家庭教師から、クラーク家の新しい家族に。
 確かに関係性が変わったことを実感する。
 
「じゃあ、ビクトリアさん、俺そろそろ仕事に行ってきます」

「ビッキー、行ってきまーす!」

「二人とも、いってらっしゃい!」
 
 私は外に出て、それぞれ仕事と学校に行く二人を見送った。
 
 キンモクセイの良い香りを伴って、秋晴れの清々しい風が吹き抜けていく。
 上を見れば、雲ひとつない抜けるような青空。
 
 深呼吸をすると、澄み渡った空気が肺いっぱいに広がる。

 ぐーっと背伸びをすると、目がしゃきっと開き、やる気と元気が満ちあふれてきた。
 
「よーし、今日も一日がんばるぞ~っ!」
 
 晴れやかな気分になった私は、明るい声を出して屋敷の中へ戻った。
 
 だが、その数時間後。
 爽やかな気分を吹き飛ばす事件が起きるとは、この時の私は知るよしもなかった――。