【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「シチューはシェフが作った物を温めただけだけど、卵料理は俺のお手製です。見た目は悪いが、味はなかなかだと思います。さあ、食べてみて下さい」

「はい、それでは。……うん、美味しい! アシュレイ様、とっても美味しいですよ!」

 少し大げさに言うと、彼は嬉しそうに微笑んで正面に座った。
 その後も、アシュレイはワインを飲みながら、私の食べる姿をニコニコと眺めている。

「アシュレイ様、そんなに見つめられたら顔に穴が空いてしまいますわ」

「あ、ごめん。でも、幸せで。なるべく見ないようにします」

 アシュレイはそう言うと、頬杖をついて窓の外を眺め始めた。
 
 食べる私と、遠くを見つめるアシュレイ。
 お互いに何も言わず、食器とカトラリーがこすれる(わず)かな音だけがする。

 静かな空間だった。
 だが、不思議と気まずくはない。

 目線をちらりとあげると、アシュレイと視線が合った。

 まずいと思ったのか、彼がすいっと目をそらす。
 
「俺がいたら、食べ辛いですか?」

「正直に言うと、少し」

「分かりました。俺は自分の部屋にいるので、ゆっくり食べて下さい」

 アシュレイはにっこり微笑むと、ワイングラスを片手に席を立った。
 
「食べ終わったら、渡したい物があるので取りに来て下さい。――じゃあ、また後で」

 パチッと、イケメン俳優顔負けのウインクを炸裂させたアシュレイは、悪戯っぼく微笑み、ダイニングルームを去って行った。