【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「イアン様? どうしたんですか」

「ママの夢みてた。なんだかビッキーの声って、ママに似てる。優しいとこも、笑った顔も似てる」

「そう……ですか」

「ね、アシュレイもそう思うよね」

「ん? まぁ、なんとなくだな」

 アシュレイはそう言うと、寝ぼけて落ちないようイアンを抱きかかえて下車した。私も続いて馬車を降り、後ろをついていく。

 二人の背中を眺めながら絶えず思い返すのは、先程のオスカーとの会話。
 
 彼はあの時、私にこう告げた。
 
 
『アシュレイ・クラークの思い人は、ジェナ・アリソン。イアンという少年の亡き母親だ』

 話を聞いたときは、オスカーがついた嘘だろうと思った。

 けれど、ジェナのことを語るアシュレイを見て、もしかすると思ってしまう。

 耳の奥で、オスカーの囁きが絶え間なくこだまする。
 
 
『記憶というものは美化されていくんだ。だから生きている人間は、美しい思い出の中の死者には勝てないのさ』
 
 
 振り払おうとしても、オスカーの言葉が頭から離れず心をじわじわと苛んでいく。

 
『ビクトリア。君はジェナの代わりでしかないんだ』

 
 アシュレイとイアンは優しくて親切で、一緒にいると幸せだった。最近では家族になれたかのような錯覚に陥ることも、しばしばあった。

 だけど、彼らの優しさや愛情は、本当に私へ向けられたものなのかな。
 二人は無意識のうちに、私にジェナの面影を重ねているのかも。

 
 ……なんだ、私はやっぱり。誰かの代わりだったんだ。