【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「ああ、侯爵家を出たと知ってから君の動向を秘密裏に調査していたんだ。クラーク家にいると分かってからは、あの男のことも徹底的に調べた。そこで分かったことがある――アシュレイ・クラークは、ずっと叶わぬ恋をしているんだ」

 オスカーのペースに乗せられてはいけない。
 
 話せば話すほど、私の心は揺さぶられる。一刻も早く立ち去らなきゃ。
 
 そう頭では分かっているのに……。

「地位と名誉、将来性もある美貌の騎士アシュレイ・クラーク。社交界で絶大な人気を誇るにも(かか)わらず、恋人はおろか浮いた話のひとつもない。そのことを君も不思議に思ったことがあるんじゃないか?」

 たしかに、疑問に思わないといったら嘘になる。

 望めばどんな女性とでも付き合えそうなモテ男なのに、恋人の影は一切ない。

 今はイアンがいるから、子育て最優先で恋愛から遠ざかっているのだと思っていたけれど……。

 誰かに片思いしていて、今も叶わぬ恋心を胸に抱いているのなら、話のつじつまは合う。

 
 オスカーは私の耳元に口を寄せて、呟いた。

 
「アシュレイ・クラークの思い人は――」

 
 告げられた名前に、私は目の前が真っ暗になった。
 追い討ちを掛けるようにオスカーが言葉を紡ぐ。
 

「――という訳だ。ビクトリア。苦しい片思いなんてやめて、僕の元へおいで」

「――っ。お断りします!」


 動揺を必死に抑え、私はドレスをひるがえして部屋を出た。
 

 扉が閉まる直前――。
 
「どんな手を使っても、君を必ず僕のものにしてみせる」

 不気味な声が聞こえてきたが、私は一切取り合わなかった。