【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

 たどたどしく踊るペアが多い中、イアンとキャシーは大人顔負けの上手さだった。

 イアンが完璧なリードで、キャシーと華やかなダンスを披露する。

 楽しげな二人の姿を眺めながら、私はさきほど心に芽生えた感情を整理していた。


 アシュレイと過ごす時間は、居心地が良い。たぶん私は彼に好意を抱いている。
 
 でもそれは、恋愛感情なんかじゃない……と思いたい。
 
 恋なんていう、曖昧でいつ終わるとも知れない感情に支配されたくないわ。

 
「ビクトリアさん、顔が赤いですよ? 何か冷たい飲み物を――」

 アシュレイが心配そうに私の顔をのぞき込み言いかけたところで、背後から「久しぶりだな」と声がかかった。

 声の主は近衛騎士の制服を着ている。話の内容を聞くに、昔アシュレイと共に騎士団に所属していた人みたい。
 
「どうぞ、私に遠慮せずお話ししてきて」

「けれど――」

「私は大丈夫ですわ。あそこのソファで休んでいますから」

「分かった。すぐ戻る」

 アシュレイを見送ったあと、私はダンスホールの隅にあるソファへ腰を下ろした。ここなら子ども達の様子も見えるから安心だ。
 
 キャシーとのダンスを終えたイアンは、クラスメイトに囲まれていた。

『イアン君、ダンス上手だね』
『すごいわ! 今度はわたしとも踊って!』