【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

 一方、ビクトリアが部屋に入ったのを見届けたアシュレイは、片手で額を抑えてふぅとため息をつく。鏡を見ずとも、頬がじんわり熱を持っているのが分かった。
 
 
 ――『誰が何と言おうと、あなたは私達の英雄(ヒーロー)です!』
 
 
 まぶたの裏には、一生懸命に自分を励まそうとしてくれる彼女の健気な姿が、耳には真摯な言葉が繰り返し流れている。

 戦勝記念パーティではじめて見かけた時から、真っ直ぐな人だなと思っていた。
 
 周囲から向けられる好奇の視線にも負けず、堂々とオスカーの前で謝辞を述べる姿。
 
 悔しさや腹立たしさを(こら)え、エリザ令嬢にもまっすぐ言葉をかける横顔は、その場にいる誰よりも凜として眩しかった。


 ――思えば、女性に関心を持ったのは、あの時が生まれて初めてだったな。
 
 気性が荒い母親を持ったせいか、アシュレイは物心つく頃から女性が苦手だった。気の強いひとは特に。
 
 ビクトリアのことも最初は警戒していた。どう見てもおっとりしたタイプには思えなかったし、貴族令嬢は得てして気位が高いものだ。

 高位貴族ならなおさら、庶民や使用人を下に見る傾向が強い。
 
 だが彼女は良い意味でアシュレイの予想を裏切る女性だった。
 
 働かないことを美徳とする貴族令嬢にあるまじき、真面目で丁寧な仕事ぶり。とても勤勉なひとだなと思いきや、プライベートは明るく奔放。

 ダンスレッスンではイアンと一緒になって子供のようにはしゃいだり。かと思えば、今日のように大人びた表情で自分に寄り添ってくれたり。不思議なひとだ。
 
 気付いたら目で追っていて、その仕草に一喜一憂している自分が居る。
 
 
「はぁ、参ったな。本当に――」

 アシュレイは、ビクトリアが消えた扉を見つめ、口元にゆるやかな笑みを浮かべた。

「――俺は、すっかり心を奪われてしまったようだ」