【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「ビクトリア先生」

「はっ、はい!」

 急に名前を呼ばれて心臓がヒュッとなる。
 
「明日は……いや、日付が変わったから、もう今日か。イアンの始業式なので、片付けて寝ましょうか」

「そうですね! そうしましょう」

 アシュレイはいつもの朗らかな雰囲気をまとっている。どうやら私の発言に不快感を抱いている訳ではなかったみたい。

 ほっと安堵して、私はテキパキとテーブルの上を片付けた。

「では、おやすみなさい」

 背を向けようとしたとき「待って下さい」と呼び止められた。

 とっさに見上げると、アシュレイはいつになく優しい面もちで私を見つめていた。

「今日は、遅くまで起きて待っていてくれてありがとう。あなたのおかげで、心が軽くなった」

「お役に立てて良かったです」
 
 にっこりほほ笑むと、彼も口元に弧を描き笑い返してくる。そして「おやすみなさい。ビクトリアさん」と言った。

 真夜中の秘め事を囁くような、どこか艶めいた声色だった。

 数分前と同じ人、同じ仕草なのに、まるでアシュレイが知らない男性のようで、私の心臓が不自然に跳ねた。そそくさと部屋に入り、ドキドキと高鳴る胸を押える。

「な、何だったんだろう……」

 とりあえず、元気づけられて良かったと思いながら、私はベッドに横たわった。