【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「まだ言いたいことがあるんです!」

「うん? 何ですか」
 
 顔をあげたアシュレイの目をまっすぐ見て、私は真摯に告げた。

「アシュレイ様が居たから、戦争も長引かず、この国の人々は平和に暮らせています。私も命を救って頂きました。イアン様だって、あなたが居るから安心してワンパク怪獣になれる」
 
 アシュレイは息をするのも忘れた様子で、驚きに目を見開いて私の話をじっと聞いている。
 
 
「誰が何と言おうと、あなたは私達の英雄(ヒーロー)です!」

 
 あなたは役立たずの疫病神なんかじゃない。
『生んだのが間違いだった』なんて酷い言葉に惑わされないで欲しい。

 アシュレイのおかげで、私もイアンも、この国の人々も、みんなが幸せに暮らせているんだから――。


 力強く言い切ったあと、しばらく沈黙が流れた。
 
 まるで時が止まったかのように、アシュレイは瞬きもせず私の顔を見つめている。
 
 しばらくしても動かないので、彼の肩をトントンと叩き「あのー、アシュレイ様? 大丈夫ですか?」と声をかけた。
 
 夢から覚めたように彼がはっと我に返る。

「まいったな、ほんと」

 再び時間が動き出した彼は、開口一番そう言った。

 呆れとはちょっと違う。色んな感情を噛みしめるような、しみじみとした声音だった。

 考え込むように黙り込んだアシュレイの姿に、私はさーっと酔いが()めていく。ついでに血の気も引く。

 酔いに任せて言いたい放題いったけど、押しつけがましかった……?
 家庭教師のくせに、馴れ馴れしい奴めと思われたかしら。
 
 もしかしてクビとか……。

 最悪のビジョンが脳裏にちらついてヒェッと身震いした。