【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

 ぎゅっと目を瞑り衝撃に備えていたものの、いつまで経っても痛みは訪れず。

 あれ……? と思い顔を上げると、私の隣にはいつの間にかアシュレイが立っていた。その右手には、婦人の持っていた扇が握り絞められている。

「ビクトリア先生、お怪我はありませんか」

 アシュレイがこちらを横目で見つつ尋ねてくる。「はい、大丈夫です」と答えると、安心したように頷き、すぐさま両親へ視線を戻した。

 
「二度と俺に関わらないで下さいと、以前申し上げたはずです」

 唸るような低い声だった。彼の全身から剥き出しの敵意がほとばしる。

 隣に立つ私でさえ本能的に『ひぃ、怖い……』と思うのだ。睨まれているクラーク卿と夫人は、さぞ恐怖を感じていることだろう。二人とも顔を青ざめさせていた。
 
 だが気の強い夫人は、アシュレイの威圧に屈することなく言い返す。
 
「親に向かって『会いに来るな』とは、なんて酷い息子なの」
 
「酷い? よくもまぁ、言えたものですね」

 ほの暗い瞳をしたアシュレイが、片方の口の端を吊り上げる。
 爽やかで温厚な彼らしくない酷薄な笑みだった。
 
「俺に『息子だなんて思ったことはない』と言ったのをお忘れですか?」

 息子の問いにクラーク卿は無言で視線をそらし、夫人は「忘れたわ」と悪びれもせずに言ってのけた。