【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「その孤児が器量良しなら、知り合いの屋敷へ奉公に出させてあげようと思ったのよ。アシュレイだって、男手ひとりで子育ては大変でしょう? 息子を楽にしてあげたいという、これは親心よ」

 自分達の野心のため、イアンを勝手に邪魔者扱いして排除しようとしているくせに、何が親心だ――!
 
 あの二人が、どれほど互いを大切に想っているか。家族以上の信頼関係を築いているか知りもしないで、勝手なことを。

 腹の底からわき上がるマグマのような怒りを勇気に変えて、私は毅然と「お通しする訳には参りません」と告げた。

 クラーク卿が眉間にしわを寄せ、夫人がイライラした様子で喚き散らす。
 
「あなたに構っている暇はないのよ! 早くそこを退きなさい!」

「お断り致します」

「何ですって?」

 クラーク卿と夫人がそろって目を吊り上げる。だが構うものか。

「もうすぐアシュレイ様がご帰宅なさいます。それまで、この部屋でお待ち下さい」

「わたくしは、そこを退けと言ったのよ。使用人の分際で口答えするなんて、全くなんて躾のなっていない女なの」

「私の雇い主はアシュレイ様です。主人以外の命令には従いません」
 
 毅然と言い放つと、夫人が顔色を変えた。
 ギリッと奥歯を噛みしめ、手にした扇を閉じて大きく振りかぶる。

 ヒュンと鋭い風切り音とともに、勢いよく扇が振り下ろされた。

 叩かれる――と思い、とっさに目を閉じる私。迫る衝撃と恐怖。

 身をすくめた直後、直後、パシンッという乾いた音が部屋中に響き渡った――。