【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「うん! だい、だい、だーいすき!」

 その一言で、アシュレイは感極まったようにイアンを思いっきり抱きしめた。

「ありがとう――」と喜びを噛みしめるように呟く。


 血の繋がらない二人の感動的な抱擁シーン……なのだが。
 

 現役騎士の愛情と腕力のこもった全力ハグに、イアンが「ぐえぇっ」とうめく。

「アシュレイ様!? 力こめすぎです! 落ち着いて!」

「え? あっ、すまない! 大丈夫か、イアン」

「うぷ。飲んだジュース、口から出そう」

「なんですって!?」「なんだって!?」

 私とアシュレイが同時に声をあげる。

「どどどどうしましょう」

「おおお落ち着いて下さい先生」

 大のおとな二人がオロオロ慌てていると、うつむいていたイアンが「うそだよーん。ドキッとした?」と顔をあげた。

 イタズラが成功して嬉しいのか、にっこにこだ。


 私が「良かった」と胸をなで下ろし、アシュレイが「なんて人騒がせな」と額に手を当てた。

 その時、ぽたりと頬に雫が落ちてきて、私たちは揃って空を見上げた。

 先程まで晴れていたのに、今や上空には大きな雲。ぽつりぽつりと小雨が降り注ぐ。


「まずい。二人とも、そこの魔道具店まで走れるか?」

「はいっ!」「はあいっ!」

 イアンと手を繋いだ私と、荷物を担いだアシュレイ。

 私たちは、賑やかに笑いながら目的の店まで走るのだった。