「でも、なんだか不思議だなー。沙良さんの結婚式に行って、帰って来たらサラの話をして。私、さらって名前に縁があるのかしら。これから知り合う人で、さらって人がいたら、絶対仲良くなっちゃう。だって、私にとってさらって間違いなく良い人な気がするもん」

ココアを飲みながら心が熱弁を振るうと、昴もははっと笑う。

「もし子どもが生まれたら、さらって名前にしちゃおうかしら」
「えー、本当に?」
「うん。久住 さら。ね?なかなかいいでしょ?」

昴は、うん?と首ををひねる。

「結婚したら、久住じゃなくなるんじゃない?」
「あ、そっか」
「そしたらさ、その…。伊吹 さらって、どうだろう?」

そう口に出してから、一気に昴は身を硬くする。

(お、俺、なんか今、凄いこと言っちゃったかも…)

すると心は、あっさり答えた。

「あー、いいね!うん。いいんじゃない?」
「ほ、ほんと?」

思わず前のめりになる。

「うん、響きもいいし。伊吹くんに女の子が生まれたら、どうぞ。って、私がどうぞなんて言うのも変か」

そう言って、あはは!と笑う心に、昴は戸惑う。

(これは、おそらく通じなかったな。うん、きっと分かってない)

昴は咳払いをし、仕切り直してもう一度口を開いた。

「あの…、じゃあ、伊吹 心って、どう?かな…」

さすがにこれは分かるだろうと、ドキドキしながら反応を待つ。

「え、伊吹 心?」
「う、うん。だめかな?」
「それはだめだよー。うん、絶対だめ」

えっ…と昴は絶句する。

「それはさすがに考えられない。伊吹くん、お嫁に行く立場になって考えてみてよ。絶対嫌だって」

ガーン…と、昴はショックのあまり、もはや何も言えなくなっていた。