「このことです。これは……?」

 彼女は、紙片をヒラヒラさせた。
 藁人形に握らせておいた紙片である。

「どうせカールはちょっとした食事にさえ連れて行ってくれないんでしょう? だから、二人の非番に合せて芝居のチケットをとってあげたのよ。いま、一番センセーショナルな芝居よ。社会派ミステリーの話題作『黄昏の果てに』。この芝居、タイトルくらいきいたことあるでしょう? あなたたちが理解出来るわけはないし、上流階級でないとチケットが取れないからあなたたちが行っても場違いこの上ないでしょうけどね」

 彼女は、つい先日雑用係のカール・ライナーと結婚したばかりなのである。