翌朝、わりとはやく目が覚めた。

 これが屋敷だったら、ヨハンナらメイドたちが交代で起こしに来てもなんやかんやと理由をつけて負い返していた。寝台の上でまどろむあの罪悪感がたまらなく好きだから、結局お昼くらいまでダラダラすごす、なんてことがほとんどだった。

 それなのに場所がかわったからか、これからひと暴れふた暴れしようとする興奮からか、パッチリ目が覚めてしまった。

 そのタイミングで部屋の扉が叩かれた。

 まるで見張られているかのような絶妙なタイミングだった。

「アイ様、お目覚めなのはわかっているのです。入りますよ」

 よく知っている声がそう脅してきた。

 それは、わたしも彼女も子どもの頃から付き合いのあるベテランの侍女リーゼ・ロイスの声である。

 彼女は、わたしが入室を許可するどころかたったの一言も発していないのにカートを押しながらズカズカと入って来た。

 焼き立てのパンと卵料理とベーコンのにおいが、ふんわりと漂ってきた。

「グルルルル」

 頭よりもお腹の方がくっきりすっきりはっきり目覚めたみたい。

 盛大に鳴き始めた。

「おはようございます。遅かったですね」

 彼女は、室内を横切るとテラスへと続くガラス扉の前までカートを押して行った。

 そして、豪快にカーテンを開けてまわるとガラス扉を開いてテラスへと出た。

「遅かったですね」?

 約束かなにかしていたような口ぶりだわ。

 彼女の言うことが謎すぎる。

 だからなにも応じないまま起き上って寝台から飛び降り、夜着から室内着に着替えた。

 それから、洗面室に行って顔を洗った。

 石鹸やタオルもあたらしいものが準備されている。

 顔を拭いてからテラスへと行った。