「めちゃくちゃギリだぞ!行くぞ!!」


ぎゅっと掴まれ、腕を引っ張られる。強引に兄貴の車に押し込められ、何も言えないまま車は動き出した。


「………。」


走り出した車の窓から、ただ外を見つめていた。見慣れた風景なのに今日はどこか違って見える。


「…あさひの旦那になる人、いい人だったぞ。前に会ったことあるんだけどな」

「………。」

「優しそうで穏やかで、あさひにはもったいないんじゃないかなー」


兄貴が無理して喋っているのはわかっていた。たぶん少しでも俺があさひに会いやすいように。


「まぁ、でもあさひも…良い子だし。お似合いか!」


風で草木が揺れている。温かくていい日だ。


「あさひは昔から可愛かったし、明るくて、周りを元気にしてくれる存在だったもんな」


天気のいいがせめてもの報いだ。


「…兄貴も、あさひのこと好きだった?」

「いーや、全然!」

「そっか…」


もう堪え切れなかった。


「あさひはずっと碧斗のものだったからな」


物心ついた時から世界で1番大切な女の子だった。

これが恋だって疑いもしなかった。


いつか俺が贈る指輪を左手薬指に着けてもらうのが夢だった。


「まだ泣くのは早いぞ、あさひの晴れ姿見てからにしとけ」


本気で大きなダイヤの指輪だって買うつもりだったんだ、あさひのために。