「碧斗、碧斗ー!」

「まだ出て来ないの?もうすぐ式始まっちゃうわよ」

「うん、母さんたち先行っててよ。後から碧斗と行くから」

「そう…、じゃあ拓海(たくみ)よろしくね」


部屋の外のドアの前で話す声だけは聞こえていた。さっきから兄貴が何度もノックしてる音も嫌になるほど聞こえてる。


「碧斗!何してんだよ、早く出て来いよ!今ならまだ間に合うから!」


ベッドを背もたれにしながら膝を立てて座り、俯きながらきゅっと耳を塞いでいた。


「おい、いい加減にしろよ!」


ドンドンドンッとノックする音と比例するように兄貴の声も大きくなる。


「せめてドア開けろ!鍵壊すぞ!」

「………。」

「おい、碧斗!聞いてるのかっ!!」


ドンッと家中に響くような音がした。兄貴がどれだけ怒ってるのかよくわかる。

あさひと約束した、行くって約束した。

だけど…、昨日のあさひの顔が頭から離れない。


"泣きたい時に泣かせてあげられなくてごめんね"


あさひにさよならを言われてるみたいだった。