パンケーキを食べ終え、2人並んで家まで帰る。
何度も一緒にこの道を歩いたけど、こんなに静かなのは初めてだった。

さっきまでパンケーキ食べてあんなに楽しかったのに、もう帰るんだと思ったら話せることがなくなった。

俺が何も言わないからあさひも何も言わない。
なんで何も言わないかわかってるみたいだった。


「ねぇ、碧斗」


か細い声で俺を呼んだ。


「ん、何?」

「明日、…碧斗も来てくれるよね?」


明日、明日はあさひの結婚式。


「行くよ、呼ばれてるからね」

「…そうだよね」


またしばらく無言が続いた。

帰りの道はこんなに遠かったっけ。

寒さも朝より増した気がする。

手を…繋ぎたい、思うことしかできなくて。


「あ、あのね!パンケーキとホットケーキの話ね、彼が教えてくれたの!」


"私も同じ反応したの!"

それは少し気になってた。
あれは誰かに言われたからそう返したって意味だ。あさひはその話を誰に聞いたんだろうって、でもなんとなく聞きたくなかったんだ。  


「そうなんだ、すごいね。知ってたんだ」


にこりと笑って見せた。俺も大人になったから。


「…碧斗、明日本当は来たくないんじゃないかって思って」

「そんなことないよ、楽しみだよ」


あさひの顔が見れなくて、無理やり前を向いた。意地でも笑っていたかったんだけど、そこまで強くもなれなくて。


「彼に全然会ってくれないから」

「………っ」


あ、ダメだ。この話はしたくない。
瞳に熱を帯びていくのを感じた。

今その話をしたら、俺…!


「碧斗、泣きたい時に泣かせてあげられなくてごめんね」


あさひの方が泣きそうな顔してた。

絶対に泣かせたくなかったのに。

俺はいつだってあさひしか見てなかったのに、あさひの瞳に映ったことは一度もなかった。

所詮子供の戯言で、全部空回りだった。



あさひにとって俺は何だった?

隣に住む子供だった?

可愛い弟だった?




俺にとってあさひは…










お姫様だった。