有栖side



「榛名くん……!」

「ありす……?」



あんまり驚いたのか,忘れたフリ中の榛名くんは目を見開いて,私を呼び捨てにする。

私が一歩ずつ歩み寄ると,榛名くんは立ち上がってこちらに来てくれようとした。

心配そうに,窺いながらやって来る。

私はその榛名くんの胸に,思いきり飛び込んだ。

もう,躊躇なんてしてあげない。

心のままに飛び込んだ。



「あっ……りす……? どう,したんですか?」

「榛名くんが,私を信じてくれなくったって構わない……! 忘れたフリして,他人行儀でも構わない! でも……! 榛名くんに私の気持ちまで自由にする権利なんて無いわ! あんまりよ」



榛名くんが私に向ける優しい感情が,私のものとは違って。

こんな気持ち迷惑なんだとしても,私は榛名くんの事が好きなのに……

それを,甚平くんに譲る,みたいに……ひどい。

甚平くんはそんなことで頷かない。

私だって,彼の手を取ることは出来ない。

重要なのは,それを言ったのが,目の前のこの榛名くんだって言うこと。