こっちも春ねぇ、と和やかな気持ちになっていると、私の隣に殿下が立った。

「あの二人は毎回、よく飽きずに喧嘩できるな」

「まさに、喧嘩するほど仲が良いって感じですね。ケンカップルかぁ、ほほ笑ましい」

「けんかっぷる? ……好きなひとの気を引きたくて失敗し、喧嘩に発展するのはよくあることだ」

「殿下にも経験がおありですか?」

 いたずらっぽく尋ねると、彼は「ある、な」と懐かしそうに言う。

「子供の頃、女の子を泣かせてしまったことがある。彼女のことは、最初から無性に気になっていた。気が付けば目で追ってしまい、会える日を密かに楽しみにしていた。今思えば、一目惚れで初恋、だったのだろう」

 中庭の木の下でクッキーを食べる少年少女を眺めながら、遠い目で過去を語る殿下。
 
 冷めた表情のまま、淡々と甘酸っぱい初恋話をする姿がアンバランスで、私は思わず彼の顔をまじまじ見てしまった。

 シリウスがこちらをチラリと横目で見て、わずかな苦笑をこぼす。

「君は、感情が顔に出やすいな」

「そっ、そうですか? 私、どんな顔してました?」

「そうだな」

 すこし身をかがめ、シリウスが私の顔をのぞき込む。